大判例

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広島高等裁判所 昭和24年(ネ)79号 判決

控訴代理人は原判決を取消す被控訴人の請求を棄却する訴訟費用は被控訴人の負担とするとの判決を求め被控訴人は主文同旨の判決を求めた、当事者双方は原判決に摘示したと同一の事実上の主張をした上控訴代理人に於て本件農地の所有権は中間省略の方法により訴外細川勇から中井通博に売買登記がなされたもので所有権が移転したのは昭和二十年十月十日であるから控訴人としては之の事実に基いて不買収決定をしたのみならず同年十一月二十三日当時被控訴人は作離れをしていて小作人たる地位を失つており従つて何等かの作物を耕作していたとしてもそれは一時的のもので継続的な小作というべきものではないから遡及買収を求めることは出来ない筈である。

尚本訴は控訴人の不買収決定の取消を求めるのであるが農地の買収処分は知事のなすところであつて控訴人の如く知事以外の委員会がたとえ不買収の決定をしたからといつて知事の買収権限が奪われる筈はなく本件不買収決定は行政処分に至るまでの手続上の過程にすぎないから行政訴訟の対象となるべき行政処分ではなく本訴は許さるべきでないと附加陳述した。

(証拠省略)

三、理  由

本件農地が元広島県深安郡湯田村居住の細川勇の所有であつたが現在中井通博の所有であること被控訴人が細川勇からこれを十数年前より賃借していたことは当事者間争がない、成立に争のない甲第一号証同第五号証乙第二号証当裁判所に於て真正に成立したと認める甲第三号証の一、二、同第四号証乙第一号証の一、乙第五号証原審並当審に於ける証人森数秀雄の各証言原審並に当審における被控訴本人の各供述当審証人谷春吉の証言(但し後掲措信しない部分を除く)を綜合すると昭和二十六年六月初頃細川勇は本件農地外数筆の農地を尾道分工場の工場用地として大阪市に本店を有する大阪精機工業株式会社に売却し同時に右会社は被控訴人外数名の小作人に対し農地潰廃の場合の離作料を支払うと共に現実に工場用地とするまでは依然従来通り小作関係を継続せしめるが会社が右農地を工場用地として使用する場合には異議なく明渡に応ずることを確約しておいたところ、右会社が現実に右農地を工場用地として使用するに至らない間に終戦となり尾道分工場を廃止することになつたので被控訴人は本件農地につき従前通り小作関係を継続し来り昭和二十年度分の小作料は風水害による減収のため小作料の減額を受けて之を同年十二月二十日頃右会社に納付し同時に離作料の返還をせうとした事実並に昭和二十一年二月二十二日中井寅雄は本件農地を二男通博のため右会社より買受け同年四月八日附を以て中間省略の方法により細川勇から中井通博に対し昭和二十一年三月十日の売買に因る所有権移転登記をした上同年六月九日附を以て中井寅雄から被控訴人にその旨通知しその当時の収獲を終つた以後は自家に於て立入耕作する旨返還の申入をしたところその頃農地買収問題がやかましくなつたので中井通博は細川勇を被告として広島地方裁判所尾道支部に対し訴訟を提起し細川勇に於て自白した結果昭和二十二年十二月二十六日右売買の日附を昭和二十年十月十日と訂正する登記をなすべき旨の判決があり該確定判決に基いて同二十三年二月三日附で右売買の日を昭和二十年十月十日とする旨の更正登記がなされた事実及現在に至るまで被控訴人に於て右農地の耕作を継続し来つて居り昭和二十一年三月頃中井方では被控訴人の小作関係を承認し今後も前同様小作させることを承諾したのであつたが右登記完了と同時に土地の引渡を要求し来つた事実並昭和二十一年度以降の小作料は被控訴人については弁済供託をしている事実を認めることが出来る。

右認定によれば、昭和二十年十一月二十三日当時においては本件農地は登記簿上は細川勇の所有名義であつたがその所有権は訴外会社に帰属していたものであつた中井通博は末だその所有権者でなかつた事実及び被控訴人は訴外会社から離作料を受領したけれども現実に本件農地を返還した事実はなく、基準時当時は勿論従前から引続き現にこれを小作している事実が明かである。

右認定に反する当審証人中井寅雄、当審証人高垣真二、土屋三郎、谷春吉、西岡久の各証言は信用しがたく乙第一号証同第三号証第五号証乃至第八号証は右認定を覆すに足らず乙第四号証中売買日附「昭和二十年十月十日」なる記載は前掲認定に照し措信しない、又乙第二号証の確定判決は細川勇と中井通博の間になされたものであつて第三者である本件当事者を羈束するものではないのみならず右判決の認定した事実関係は当裁判所の採用しないところであるから同号証は右認定を左右せず又之に基く更正登記がなされたからと言つて公信力を生ずるものではないから之また右認定を左右しない。

右認定事実に依れば昭和二十年十一月二十三日当時の所有者は中井通博ではなく右訴外会社であり、同会社は大阪市に本店を有するものであり本件農地の所在地は尾道市であつて、本件農地は所謂不在地主の小作地であるから遡及買収をすべき場合に該当するといわねばならない。

然るに拘らず被控訴人が昭和二十二年八月七日尾道地区農地委員会に対して、遡及買収の申請をしたに拘らず同委員会は之を容れず、よつて被控訴人は更に昭和二十三年二月中控訴人に対し同様の請求をしたところ、控訴人は同年四月八日附を以てその請求を却下した事実は争ないところであるから、控訴人としては買収を不相当とする特段の事情のない限り地区委員会に対して遡及買収の指示をしなければならないのに拘らず、控訴人が本件農地は昭和二十年十月十日附で右中井通博に売渡されたものと認めて、該請求を却下したのは違法であつて本訴請求は正当であり、之を認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。

尚控訴代理人は本件不買収決定は行政訴訟の対象たる行政処分でないと抗争するけれども、不買収の決定そのものは知事の買収権限を奪うものでないこと勿論であるが、本件の如く一連の行政行為に於てその中間の段階に於ける請求を認容しない行政庁の行政処分は、申請人たる被控訴人の遡及買収の申請を拒むものであつて被控訴人は之によつて一応買収を受くる利益を喪うものであるから、終局的な処分でないからといつて行政訴訟の対象となり得ない訳はなく、かゝる中間的な行政処分も亦行政訴訟によつて取消さるゝ利益の存する限りは行政訴訟の対象となり得るものと解するを相当とする。よつて右抗弁は採用しがたい。

以上の理由により民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小山慶作 土田吾郎 宮田信夫)

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